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象徴天皇制の起源―アメリカの心理戦「日本計画」 (平凡社新書)
加藤 哲郎

定価: ¥ 840
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発売日: 2005-07
発売元: 平凡社
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「天皇制民主主義」の由来を探る―彼を知りて己れを知れば…
太平洋を挟んだ日米戦争(1941?45)を簡潔に総括するならば、まさに日本側は「不知彼不知己(彼れを知らず己れを知らざれば)」(『孫子』金谷治訳、岩波文庫)という状態で敗北し、米側は「知彼知己(彼れを知りて己れを知れば)」(同)という体制によって勝利したと極言できるだろう。
確かに、日本は「情報(心理)戦」では完璧に米国に後れを取っていたわけで、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥も戦後、「世界の戦史で、戦闘前に敵のことをこれほど熟知していた例はない」と述懐していたそうである(春名幹男『秘密のファイル(上)』新潮文庫)。
こうした文脈で本書を玩読すると、今さらながら先の戦争において、全米から左翼系も含めた最優秀の歴史学者、文化人類学者、心理学者等を動員、組織して「敵国」を徹底的かつ多角的に分析し、丸裸にしていくという米国のスタイルには、ほとほと感心してしまう(この手法は当然、「年次改革要望書」などにも貫徹している)。
著者の加藤哲郎・一橋大学教授は、多分、リベラル系の学者に色分けされるであろうが、日本側もリベラルとか保守、あるいは反米・親米といったイデオロギー的立場に関わりなく研究者を総動員して、戦後の日本=「設計された共同体」(本文)の由来等について徹底した史資料の調査研究が求められよう。
専門研究者向けの論文を新書にしちゃったような…
本書は、著者がアメリカ国立公文書館で発掘した、米OSS(戦略情報局)による1942年6月作成の機密文書「日本計画」の内容、作成過程、その背景を追跡したもの。本書タイトルは、このOSS文書中に「天皇を象徴として利用する」という文言があった事実に由来する。
ジョン・ダワーが象徴天皇制の起源をフェラーズ→マッカーサーの線で考え、フェラーズの人物像や思想的背景から根拠付けたのに対し、著者はフェラーズがOSS心理作戦本部に籍を置いていた点を強調し、OSS「日本計画」→マッカーサーの線を強く示唆する。
ただ私は、膨大な史料と格闘した著者の労は多としつつも、こういう起源の詮索にある種の空しさも感じる。象徴天皇制が「外から見た日本」起源であることは動かないわけで、そこが主題にならぬまま、新書で延々と発掘資料の詳細につき合わされるのは正直言って苦痛だった。「学会か紀要でやってくれ!」と叫び出したくなる面もあった。史料訳文が生硬で、意味の取れない文も散見された。
もう1点。p107で加藤秀俊の1955年の論文「文化人類学における『国民性』の諸問題」に触れられていることからも伺えるように、著者は日本人の本質だの特質だのをめぐる議論を相対化する立場に立っている。「日本とは何か」という問いに「日本はいかに作られたか」を対置する著者の立論は今風ではあるが、しかし視線があくまでも「日本=私」に向けられているという点で、未だ日本人論という自意識の牢獄に留まっているのだと私は思う。米国の戦略についてせっかくここまで詳細に追いながら、焦点はあくまでも、そこに描出された日本像に合わされているため、米国という他者が生々しく立ち上がってくる感じがなかったのが残念。
僕たちは何にも知らない。
最近出た”ジャパン・ハンドラーズ”と対をなす作品です。両方を読み比べると参考になります。”ジャパン・ハンドラーズ”は基本的には、仮説の提示という形式をとっていたわけですが、こちらのほうは、最近公開された米国の機密文書をベースとしているため、より実証的な作品となっています。しかしながら、この作品の中のOSSのテーゼは、アメリカなるものの恐ろしさをまざまざと伝えてくれます。進歩を求めるsocial engineeringのために動員される知的資源のスケールの巨大さとその背後の徹底した情熱は、日本人の想像を超えています。著者はこれを心理戦と呼んでいますが、これは今も世界中のメディアで繰り広げられている戦いです。そしてそこでの敗者が日本と旧ユーゴというわけです。2・26事件を革命と把握していたOSSの構想が、占領下の戦後日本では、コミンテルンのagent of influenceともいうべきニューデーラーたちにより、ラディカルな改変を一部の面でこうむり、戦後日本を決定づける取り返しのつかない悪乗りにつながった点は皮肉ともいうべき計算違いだったのかもしれません。このOSSのテーゼは、2・26事件を革命ととらえる点では、中川八洋氏の”近衛文麿とルーズヴェルト”と不思議にも共通します。ということになると、私たちが今その下で生きている日本とはいったい何なのでしょうか。いろいろ考えさせてくれる作品です。
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